ボツリヌス注射の部位別による多汗症治療と知っておくべき注意点

多汗症とは、体温調整のために発汗される量が異常である病気です。ワキや手のひらなど汗腺がある部位に発症し、日本人口の10人に1人が多汗症ともいわれていますが、汗の量が多いからといって多汗症とは限らず、ある一定の条件を満たすことによって、ドクターから多汗症の診断を受けます。

多汗症治療の方法として、メスを使用しないボツリヌス注射があげられます。ボツリヌス注射の成分であるボツリヌストキシンは発汗の命令を促す交感神経に作用して、汗腺からの発汗を抑制することで多汗症の改善が期待できます。

ボツリヌス注射による多汗症治療は、ドクターの技量で施術の効果が異なるといわれています。施術時間が短い傾向にありますが、注入した製剤を取り除く再施術が困難なため、注入量や注入場所を間違えると効果が切れるまで待たなければいけません。そのため、経験豊富なドクターがいる医療機関で施術を受けて、リスクを減らした多汗症治療の効果を得るためには、ボツリヌス注射のリスクや副作用、製剤の効用期間を事前に知る必要があります。

ボツリヌス注射の成分と作用

KIREI

ボツリヌス注射で使用される薬剤は、食中毒でも知られるボツリヌス菌から抽出したボツリヌストキシンというたんぱく質の一種です。施術に使用される薬剤は、体に害を及ぼすとされる成分を分解・精製したものなので人体への影響はありません。

ボツリヌス菌が生産するたんぱく質は、神経と筋肉のつなぎ目に作用し、脳から筋肉へ命令するときに働くアセチルコリンという神経伝達物質の働きを抑制することで、筋肉へ命令が伝わりにくくなり、筋肉の働きが一時的に麻痺します。

美容皮膚科では、ボツリヌス注射を筋肉に注射し緊張を弛緩させることによって、表情ジワの改善を目指す治療や、筋肉が張ったエラやふくらはぎの改善が主な施術ですが、交感神経から命令される発汗信号を抑える働きもあるため、汗腺が多い脇や手、足裏に施術することで多汗症治療をおこなうことができます。

ボツリヌス注射の製剤の種類

美容医療で使用されるボツリヌス注射は、いわゆる「ボトックス注射」として知られています。しかし、ボトックスはアラガン社で商標登録され、厚生労働省承認のボツリヌストキシン製剤である「ボトックスビスタ」を指しているため、厳密には施術名ではありません。

ボツリヌストキシンはA型～G型まであり、そのうち医療および美容医療で使用される製剤A型とB型です。A型は耐熱性が高く、製剤化しやすく、施術後2日～2週間で効果が現れ、3カ月～4カ月持続しますが、B型は効果が約1カ月ほどであることから、美容医療ではA型のボツリヌス注射を使用する傾向があります。

多汗症のメカニズムとボツリヌス注射による治療方法

汗は、自律神経の1つである交感神経から出される信号をうけて、体温調整のために全身の皮膚表面にあるエクリン汗腺、脇の下や腹部にあるアポクリン腺から発汗します。

多汗症とは、交感神経から出される信号が過剰になることによって、汗腺が刺激され、体温調整に必要とする汗の量を上回り、大量の汗が分泌する症状を指します。

多汗症の多くはストレスや緊張、不安が原因で交感神経が乱れ、汗腺の働きが活発になることで症状が現れます。

多汗症を発症する部位は様々で、主に脇、顔、手のひら、足裏があげられます。気になる部位の真皮層にボツリヌス注射をすることによって、汗を出す命令をする神経伝達物質のアセチルコリンの放出を抑制し、神経から汗腺への情報伝達を遮断する効果があるので、多汗症の施術の1つとして使用されています。

多汗症は、体の一部の発汗が活発になる局所多汗症と、全身の発汗が活発になる全身性多汗症があり、約9割が局所多汗症であるといわれています。

局所多汗症と全身多汗症のいずれの場合も、原因のがわからない原発性多汗症と、何かしらの病気や薬が原因で発症する続発性多汗症に分けられます。

ボツリヌス注射による額や顔の多汗症治療

顔に大量の汗をかく「顔面多汗症」は、一度汗が分泌されるとと止まりにくく、運動したときに上昇した体温を下げるために発汗する温熱性発汗や、熱いもの・辛いものを食べることで味覚が刺激されて発汗する味覚性発汗とは異なります。「顔面多汗症」の場合は、緊張やストレス、不安から神経が刺激されて精神性発汗によって、大量の汗が分泌します。

顔面多汗症に対するボツリヌス注射は、多少の痛みを伴うため麻酔クリームを塗り、頬と鼻へ注射します。額に注射する場合は、髪の毛の生え際から2cmほどの髪の毛の中まで冷却しながら注射します。

また、顔面多汗症だけでなく、頭に大量の汗をかく頭部多汗症との合併も多いのが特徴で、生え際から5㎝ほどの髪の毛の中までの注射が可能です。

ボツリヌス注射によるワキの多汗症治療

脇の多汗症を「腋窩多汗症」といい、あまりに身近な症状であることから病気である認識をしておらず、医療機関にかかる人は多くありません。

脇は汗腺が集中しており、温熱発汗、味覚発汗、精神発汗の全てが促進されるため、汗をかきやすい部位です。

脇の両側にボツリヌス注射を施す場合、50単位～100単位の量を注射します。ボツリヌス注射の場合、薬剤の表し方はmlやccではなく、「単位」で表しますが、100単位の場合、1mlのシリンジが5本分に値します。

脇は痛みに敏感な部位のため、施術前に麻酔クリームを併用したり、患部を3分～5分ほど冷却してから注射をすることで注射の痛みは軽減されます。

腋窩多汗症の治療でワキガの改善も期待できる

日本人の場合、軽度のワキガを含めると15%～20%の割合で発生しています。ワキガの原因は、皮下にあるアポクリン汗腺から分泌されるたんぱく質や脂肪酸を含んだ汗を皮膚に常在する細菌が分解することで匂いが発生します。

ボツリヌス注射は、交感神経の働きを抑制することでエクリン腺と、ワキガの原因でもあるアポクリン汗腺からの汗の分泌を減少させ、雑菌の繁殖を抑えることで、ワキガの改善が期待できます。

ボツリヌス注射による手のひら・足の裏の多汗症治療

手のひら、足の裏の多汗症を「掌蹠(しょうせき)多汗症」といい、精神的な緊張から大量の汗が分泌される精神性発汗が多い傾向にあります。手のひらや足の裏は、痛覚が敏感で、ほかの部位より痛みを感じやすいため、極細の針を使用したり、施術前に麻酔クリームを塗り、患部を冷やしながら注射することで、痛みを軽減させることができます。

手のひらに注入する場合

手のひらにボツリヌス注射を施す場合、指先や母指球など気になる部位にボツリヌストキシンを注入します。

腋窩多汗症で両側で50単位～100単位の製剤を注入するのに対し、手のひらには両手100単位～150単位以上を注入する傾向がありますが、両手で150単位以上の製剤を投与することで手の筋肉に影響を及ぼし、脱力感やぎこちなさが現れることもあります。

足の裏に施術する場合

足の裏に施術を施す場合、足汗が気になる部位の真皮層に200単位～300単位の製剤を注入します。効果が実感できるまで3日～4日かかるといわれています。

ボツリヌス注射による全身性多汗症の治療

全身の発汗が増える全身多汗症の患者の割合は、体の一部で発症する局所多汗症と比較すると1割ほどいわれています。

続発性多汗症の場合、悪性リンパ腫や神経疾患、内分泌代謝異常、褐色細胞腫などの基礎疾患が原因で多汗症の症状がおこることもあって、疾患がある場合は、局所で発汗するよりも全身から発汗する傾向があります。そのため、原因がわからず全身に異常な量の汗をかく場合は、医療機関を受診して疾患が隠れていないかを検査する必要があります。

TCB東京中央美容外科

多汗症治療におけるボツリヌス注射の効果の持続期間・注入量と料金相場　

多汗症治療におけるボツリヌス注射では、部位にかかわらず2日～3日で作用し、汗の分泌がおさまります。

ボツリヌス注射による多汗症治療の効果の持続期間　

ボツリヌス注射の多汗症治療での効果の持続期間は、4カ月～9カ月です。ボツリヌス注射は完治を目指す治療ではないので、ボツリヌス注射の効果がなくなると汗腺の活動が再び活発になりますが、ボツリヌス注射を定期的に受けることによって、多汗症を継続的に改善できます。

多汗症治療におけるボツリヌス注射の注入量と料金相場　

部位	注入量の目安	料金相場
ワキ	両脇 50単位～100単位	20,000円～140,000円(保険適用)
手のひら	両手 100単位～150単位	40,0000円～120,000円(自費診療)
足の裏	両足 200単位～300単位	40,0000円～120,000円(自費診療)
額	100単位～	30,000円～100,000円(自費診療)
頭部	150単位～	40,000円～300,000円(自費診療)

「腋窩多汗症」の場合、多汗症と診断される基準を満たせばボツリヌス注射による治療が保険適用となる場合があります。脇汗が気になるすべての人に保険が適用されるわけではなく、ドクターによって重度の多汗症と診断された場合のみ保険が適用されます。

局所性多汗症の場合は、原因不明な発汗が6カ月以上続いていて、以下の診断基準のうち2つ以上当てはまると多汗症と診断されることがあります。

• 最初に症状が出たのが25歳以下
• 対称的に発汗が分泌する
• 睡眠中は発汗がおさまる
• 1週間に1回以上多汗によるエピソードがある
• 家族に多汗症の人がいる
• 多汗症によって日常に影響がある

ボツリヌス注射以外の多汗症治療　

多汗症の治療方法はボツリヌス注射だけでなく、汗腺を切除することで多汗症を改善する手術や、外用薬を使用した治療法があります。

ワキの皮膚を切開して汗腺を取り除く汗腺切除　

ワキの皮膚を切除し、脇汗とワキガの原因であるアポクリン汗腺を取り除くことで、汗の分泌を抑制することができます。ボツリヌス注射と異なり、汗腺を取り除くことで多汗症やワキガの再発率は低くなりますが、皮膚を4cm～5cmほど切開するため傷跡が残ることもあります。

ダウンタイムが短いボツリヌス注射と比較すると、3日ほど安静にする必要があり、経過観察や抜糸のために通院する必要があります。

汗腺切除は保険が適用されるので、ダウンタイムを取れる方や、効果を持続させたい方はドクターに相談してください。

汗を促す神経を切除する胸部交感神経遮断術　

手のひらの発汗は、精神性発汗で大脳からの命令によって、胸部交感神経を経由して発汗が促されています。胸部には手の発汗に関係あるT2～T6という神経が異常を起こすことで手掌多汗症が起こるので、胸部の神経を切除して発汗を抑制させる胸部交感神経遮断法が手掌多汗症には有効とされています。

胸部交感神経遮断法は、手掌多汗症だけでなく、ワキ、頭などのほかの多汗症部位も改善することがあります。

手術後は深呼吸がしづらいかったり、胸部が痛んだりすることがありますが、約1週間で治まることが多く、腋の皮膚を2mm~4mmほどの切除ですむため、傷跡が残りません。

副作用として、胸部交感神経遮断術でワキや手のひらの発汗を抑える代わりに太ももや腰、臀部から発汗する代償性発汗を発症することがあります。神経の切除範囲を狭くすると代償性発汗の症状は緩和されるといわれていますが、代償性発汗のメカニズムは解決されていない部分が多く、手術前に代償性発汗が起こることを予測するのが難しいです。

汗腺をふさぐ塩化アルミニウム外用療法　

塗り薬である塩化アルミニウム外用は、汗腺の出口をふさぐことで、発汗を抑制します。継続して患部に塗布することで、汗腺そのものを委縮させ、汗の促進を抑制できるといわれていますが、肌があれたり、皮膚がかぶれたりすることもあるため、使用頻度や、用量、濃度を守ることが大切です。塩化アルミニウム外用薬は薬局でも手に入れることができますが、医療機関で処方された場合、日本では保険適用の薬がないため、自由診療になります。

水に患部を浸すイオントフォレーシス　

微弱電流を流した水道水に患部を浸すことで、多汗症の治療をする方法です。

諸説ありますが

水を分解することで発生する水素イオンが汗腺の出口を塞いで汗が分泌が抑制されるのではないかといわれています。身体に電流を通すので、ペースメーカーを装着している方や、心臓に疾患のある方は施術を受ける前にドクターに相談する必要があります。イオントフォレーシスは、継続的に通院する必要がありますが、保険適用で1回1000円ほどで施術が可能なため、ほかの手術や施術と比較すると費用がかかりません。

ボツリヌス注射による多汗症治療のダウンタイムとリスク　

ボツリヌス注射による多汗症治療のダウンタイム　

ボツリヌス注射は、汗腺がある真皮層や皮下組織など皮膚の浅い部分に注射するため、施術直後は虫刺されのようなポコっとした腫れがありますが、3時間～4時間ほどで腫れが収まります。また、注射の後にできる赤みは半日～1日ほどでおさまり、まれに注射部位の内出血が起こる場合がありますが、少量ずつ注入するため出血は少なく、約1週間ほどでおさまります。

ボツリヌス注射による多汗症治療のリスク・副作用　

再手術が難しい

1度注入した製剤を取り除く再施術が困難なため、注入量や注入場所を間違えると効果が切れるまで待たなければいけません。

代償性発汗

ボツリヌス注射による多汗症治療には、まれに施術部位以外の発汗が活発になる代償性発汗が見られることがありますが、ボツリヌス注射は小範囲の面積だけを施術するため、代償性多汗症を発症することは少ないとされています。

腫れや赤み

ボツリヌス注射の施術後は、注射によって皮膚に傷をつけるため、赤みや腫れを伴うことがありますが、1週間ほどで治まるといわれています。

短期投与によるリスク

ボツリヌス注射を何度も受けることによって、自身でボツリヌストキシンに対する中和抗体を作ってしまい、施術の効果が減弱することがあって、再投与まで4カ月以上の期間を設ける医療機関も少なくありません。個人差はありますが、中和抗体ができるボツリヌストキシンの量は2000単位～4000単位といわれています。

しかし、中和抗体の生産をさせないような製剤もあるため、ボツリヌストキシンの製剤によって短期投与が可能になりました。

筋肉に作用する

多汗症治療でおこなうボツリヌス注射は、筋肉に注射する表情シワの治療と異なり、汗腺が存在する真皮層に注射します。しかし、医師の技量不足により筋肉に注射した場合、筋肉の働きが抑制されて不自然な表情になる場合があります。ボツリヌス注射の効果は、永続的ではないため、半年ほどで効果が薄れもとに戻ります。

ボツリヌス注射による多汗症治療で事前に知っておくべきこと　

施術を受ける際にドクターとの相談が必要な方　

• 筋肉の病気にかかっている方
• ボツリヌストキシンのアレルギーがある方
• ボツリヌス菌で食中毒にかかったことがある方
• 呼吸器疾患、緑内障の方
• 全身性の神経筋接合部の病気がある方
• 尿路感染症の方
• 一般用医薬品含めて他の薬を使用している方
• 妊娠中、妊娠している可能性がある、授乳中の方は禁忌

これらの症状に当てはまる場合は、施術前にドクターに相談してください。ドクターとの相談の結果、施術を受けられないこともあります。

ボツリヌス注射による多汗症治療の基本的な施術の流れ　

⑴　診察・カウンセリング

多汗症のチェックリストを記入し、発汗の程度を検査をして、必要であれば採決などを行います。また、施術の同意書を記入します。

⑵予約の日程を調整

⑶診察・注入準備

希望により、患部に麻酔クリームや患部を冷やすクーリングをおこないます。医療機関によっては、自宅で麻酔クリームを塗るような場合もあります。

⑷注入

痛みが少ないように施術希望の部位に極細の針で施術します。施術時間は10分～15分程度です。

⑸施術終了

施術後は注入した箇所を強くもんだり、刺激を与えることは避けましょう。施術終了後からメイクをすることができます。

施術を受けた後に控えるべきこと　

• 施術部位へのマッサージや強い刺激

製剤が別の部位へ流れてしまうことを防ぐために、ボツリヌス注射をおこなった部位は1日～2日ほど控えてください。

• 避妊

海外で妊娠や胎児への影響が認められているため、女性の場合は投与後2回の月経が終了するまで、男性の場合は投与後3カ月は避妊してください。

• 長時間の入浴や飲酒

長時間の入浴や飲酒をすることで、血行が良くなり施術箇所が腫れたり、内出血をおこすことがあるため、当日～2日の長時間の入浴は控えてください。

• 激しい運動

運動により血行が良くなると、腫れや内出血がおこることがあります。また、汗をかくと、針穴に汗が入り感染を起こす可能性があるため、激しい運動は当日～2日ほど控えてください。

• エステ・マッサージ

ボツリヌストキシンが別の部位に拡散されて効果にムラがでるため、注入後1週間は注入部位のエステやマッサージは控えるべきです。

ワキの多汗症は医療レーザー脱毛の施術を併用して受ける　

長期間の減毛・脱毛を目指せる医療レーザー脱毛の施術を併用することで、多汗症やワキガの治療相乗効果が見込めます。

においの元であるアポクリン汗腺は、毛穴と一緒に存在していて主にワキに集中しています。毛があることによって汗がこもり、菌が増殖することでにおいが発生します。

脱毛して減毛すると汗かとどまりにくくなり、菌の増殖を防ぐことで、においを抑制することができます。

ボツリヌス注射による多汗症治療を受ける医療機関の選び方

　

ボツリヌストキシンの注入量や注入場所が不適だと、交感神経の働きを抑えられず、汗が抑制されなかったり、効果にムラできることがあります。また、施術時間も短く、手軽に受けることができる故に繰り返し施術することで抗体が生産され、効果が減弱するため、適切な注入期間と部位に合った製剤の量を注入することが重要です。

そのため、各製薬会社の実技セミナーや講習を受け、認定書が授与されたドクターの指導をおこなう認定医や指導医は、豊富な知識や経験を有することから、ボツリヌス注射に不安がある方は、指導医や認定医が在籍している医療機関で施術を受けてください。

また、ワキの多汗症の治療を検討している場合は、医療レーザー脱毛を併用しておこなえる医療機関で施術をおこなうことで、多汗症治療と脱毛治療の相乗効果が期待できます。