ボツリヌス注射による眼瞼痙攣・斜視治療の効果・費用と保険適用の有無

顔のなかで存在感のあるパーツのひとつである目や目の周辺には、様々な筋肉が存在しており、筋肉を使用して緊張することで目尻にシワができたり、目が小さく見えることがあります。 筋肉の緊張をやわらげて、目尻のシワや目の大きさの改善を目指す治療のひとつがボツリヌス注射です。

ボツリヌス注射は、筋肉と神経の間に作用し、筋肉の緊張を和らげる働きがあるため、シワや目の大きさの改善を目指すだけでなく、眼科や神経内科にて斜視や、筋肉の異常によって自身の意思とは関係なくまぶたが動いてしまう眼瞼痙攣の治療にも使用されています。

ボツリヌス注射による施術は、効果が永続的ではなく、継続的な注入が必要であることから自身のタイミングによって中断することもできるな施術です。

一方で、副作用やリスクがあり、自身がおこないたい施術によって受診する医療機関や費用が異なるため、施術を受ける前にボツリヌス注射の効果・注意点、費用を知っておく必要があります。

KIREI

ボツリヌス注射の成分と作用

ボツリヌス注射は、食中毒を引き起こす原因菌でもあるボツリヌス菌から、毒素を分解・抽出したのもです。体に害を及ぼすとされる成分は取り除かれているため、人体への影響はありません。

ボツリヌス注射は、ボツリヌストキシンを筋肉に注入することで、筋肉と神経のつなぎ目に作用します。神経から筋肉に放出される神経伝達物質のアセチルコリンの働きを抑制することで、筋肉の動きを麻痺させることができます。

美容医療においてのボツリヌス注射では、表情ジワやエラ・ふくらはぎの張りを改善に導く治療、多汗症の治療で主に使用されます。

加えて、ボツリヌス注射は、片方の視線が対象物を見ていない斜視の治療や、まぶたが自身の意思とは関係なく痙攣してしまう目の病気の眼瞼痙攣(がんけんけいれん)の治療にも効果が期待できます。

また、ボツリヌス注射にはA型～G型までありますが、ヒトに起こりうるボツリヌス症はA型とB型なので、医療などで使用される製剤はA型とB型です。

一般的に認知されている「ボトックス注射」は、アラガン社で製造されている「ボトックスビスタ」を指すものなので、正式な施術名ではありません。

ボツリヌス製剤は生理食塩水で希釈して使用

ボツリヌス注射の場合、製剤の寮の表し方はmlやccではなく、「単位」で表します。

ボツリヌス製剤には、50単位製剤と100単位製剤があります。瓶に入っている製剤は粉末状のため、生理食塩水で希釈して使用します。

ボツリヌス注入をおこなう部位によって、使用する製剤の種類や量が異なり、生理食塩水で希釈する量が異なると、量を表す「単位」が変化します。

生理食塩水	溶解後のボツリヌス濃度 (50単位製剤の場合)	溶解後のボツリヌス濃度 (100単位製剤の場合)
1.0ml	5単位/0.1ml	10単位/0.1ml
1.25ml	4単位/0.1ml	8単位/0.1ml
2.0ml	2.5単位/0.1ml	5単位/0.1ml
2.5ml	2単位/0.1ml	4単位/0.1ml
4.0ml	1.25単位/0.1ml	2.5単位/0.1ml
5.0ml	1単位/0.1ml	2.0単位/0.1ml
8.0ml	–	1.5単位/0.1ml

ボツリヌス注入を繰り返しおこなうことでできる中和抗体

ボツリヌス注入は、手軽に受けられる施術である一方で、体内でたんぱく質の活性を中和させる中和抗体が生成されてボツリヌス注射の効果が減弱することがあります。

そのため、ボツリヌス注入を再度おこなう際は、部位・症状に関わらず前回の注入から3カ月～4カ月の期間をあける医療機関が一般的です。

目の周囲にボツリヌス注射をする方法・注射時の痛み

ボツリヌス注射による目の周囲の施術は、目の開閉を担う表情筋の眼輪筋に製剤を注入して筋肉を弛緩させることで、目尻のシワや、タレ目の改善を目指します。

ボツリヌス注射では、採血や点滴、予防接種などで使用する注射針を使用しており、表情筋の量や皮膚の厚さによって変わりますが、針を挿入する際にチクッとした痛みがあるといわれています。希望によって麻酔クリームや笑気麻酔をおこなえる医療機関もあるので、施術を受ける前に医療機関へお問い合わせください。

目の周囲にボツリヌス注射をする美容皮膚科の施術

聖心美容クリニック

ボツリヌス注射による目尻のシワ治療

シワができる大きな原因として、ほうれい線などの加齢で生じる「皮膚のたるみによるシワ」、乾燥や紫外線によってできる「ちりめんジワ」、表情筋を使用することによってできる「表情ジワ」があります。

目尻にできるシワは、目や口の動きに沿って存在する表情筋の影響で生じる「表情ジワ」がほとんどです。笑った時や怒るといった表情を繰り返し、表情筋を日常的に使用することにより、緊張した表情筋が元に戻らなくなり、シワが徐々に固定されることで、目尻に表情ジワができます。

表情筋のひとつであり、目の開閉をする役割がある眼輪筋にボツリヌス注射を施して筋肉の緊張を取り除き、筋肉の動きを弱めることで、シワを生じにくくすることができます。

ボツリヌス注射によるタレ目形成

下まぶたにある眼輪筋にボツリヌス注射を施すことで、筋肉が弛緩し下まぶたを支える力が弱まり、まぶたが下がることによって、目が大きく目尻へたれ下がったラインへ導くことができます。

ボツリヌス注射によるタレ目の形成の注入場所は以下の3つが挙げられます。

• 目尻側の下まぶたに注入
• 黒目の下まぶたに注入
• 目尻と黒目の下まぶたに注入

目尻側	たれ目の強調
黒目の下	たれ目でぱっちりした目
目尻側＋黒目の下	ぱっちりした目で、目を丸く

ボツリヌス注射によるたれ目形成に永続的な効果はなく、持続期間は3カ月～4カ月ほどなので、たれ目のラインを維持するためには継続的に施術を受ける必要があります。

歳月の経過とともに元の目のラインに戻らない方法としては、目尻を切開して目の横幅を大きくする目尻切開と、下まぶたの結膜側を切開して、下まぶたを下げる下眼瞼下制術（かがんけんかせいじゅつ）別名「グラマラスライン」という方法があります。

ボツリヌス注射による目尻のシワ治療とたれ目形成の注意点

ボツリヌス注射の施術は、麻酔なしでの治療時間が5分～20分、麻酔を使用しての治療が20分～40分と短い一方で、注入量や注入場所が異なると不自然な表情になったり、眉毛の位置が下がる眉毛下垂が生じることがあります。

また、ボツリヌスの注入部位に一時的な腫れ・赤み・内出血が生じることがありますが、2日～1週間ほど収まるケースがほとんどです。 ボツリヌス注射によるダウンタイムはありませんが、ボツリヌスの注入直後は、生理食塩水の影響で目に軽微なふくらみを感じることがあります。しかし、生理食塩水は1時間～2時間ほどで体内に吸収されて目立たなくなる傾向です。

ボツリヌストキシンの濃度を生理食塩水で低濃度に希釈して注入量を増やすと、眼瞼挙筋や前頭筋などの周囲の筋肉に影響を及ぼすことがあります。

ボツリヌス注射による目尻のシワとタレ目形成の注入量と料金

ボツリヌス注射による目尻のシワ治療とタレ目形成は保険が適用されない施術なので、費用は全額自己負担となります。

下まぶたの眼輪筋料金は目尻のシワ治療、タレ目形成のいずれにしても、注入量と注入回数によって異なります。

	目尻のシワ治療	タレ目形成
料金	両目：16,000円～50,000円	両目：18,000円～75,900円
注入量	両目：12単位～24単位	両目：8単位～16単位
注入部位	目尻の眼輪筋	下まぶたの眼輪筋

料金は目尻のシワ治療、タレ目形成のいずれにしても、注入量と注入回数によって異なります。

目の周囲にボツリヌス注射をする眼科や神経内科の施術

湘南美容クリニック

ボツリヌス注射はもともと眼科などの一般医療で斜視や眼瞼痙攣の治療に用いられていた方法で、後に眉間のシワなどに効果があることが承認されたため、美容分野でも応用されるようになりました。

ボツリヌス注射による眼瞼痙攣の治療

眼瞼痙攣とは、眼輪筋が自分の意思とは関係なく収縮しまぶたが痙攣する疾患です。不要なまばたきが増えたり、症状が悪化すると目が開かなくなることもあります。

眼瞼痙攣のセルフチェック項目としては、以下のような症状があげられます。

• まばたきの回数が増えた
• まぶしさを感じやすくなった
• 目を閉じているほうが楽
• 目が乾く

筋肉が痙攣する理由として、神経から分泌される伝達物質の異常が原因といわれています。そのため、神経からの伝達をブロックする働きがあるボツリヌス注射をおこなうことで、筋肉の緊張をやわらげて、眼瞼痙攣の改善を目指すことができます。

ボツリヌス注射による斜視の治療

斜視とは、両眼で同じ方向を見つめることができず、片眼の視線が対象物に向いていない状態のことです。

小児期に生じる共同性斜視の原因は不明なものが多いですが、遺伝で斜視になる場合や、神経や目の筋肉に麻痺があることで斜視になる場合もあります。大人になってから斜視になる場合は、頭のけがや、筋肉の異常・麻痺が原因で生じる麻痺性斜視があります。

斜視には、大きく分けて外斜視・内斜視・上斜視・下斜視・4種類があります。 斜視の状態によってボツリヌスを注入する部位は異なりますが、いずれにしても、ボツリヌス注射で一時的に筋肉を麻痺させることで、視線を正常な位置に保つ効果が期待できます。

	視線の外れ方	注入部位
外斜視	外側に外れる	外直筋
内斜視	内側に外れる	内直筋
上下斜視	上側・下側に外れる	上直筋・下直筋

ボツリヌス注射による眼瞼痙攣と斜視の治療のリスクと注意点

ボツリヌス注射による眼瞼痙攣では、副作用として筋力が弱くなりすぎてしまい、まぶたを閉じることが困難になる閉瞼不全が生じることで、目が乾いたり、目の乾燥を防ごうと涙を流すことがあります。また、反対にまぶたを開けることが難しい開瞼不全、物が重複して見える複視、針の注入部位における皮下出血などのリスク・副作用があります。

しかし、ボツリヌス注射の効果が減少し、まぶたが元の状態に戻るにつれて副作用は軽減していく傾向です。

ボツリヌス注射による眼瞼痙攣と斜視の治療の注入量と料金

ボツリヌス注射による眼瞼痙攣の治療は、国によって承認されている施術のため、保険が適用されます。

	眼瞼痙攣	斜視
注入量	片目：　1.25単位～2.5単位×6 両目：　1.25単位～2.5単位×6　×2 (1カ月の合計は45単位以内)	1部位：1.25単位～5.0単位 最大で10単位まで
再注入量	初回の2倍が限度	過去の注射の2倍が限度
1割負担※	両目：約5,200円	両目：約5,200円
3割負担※	両目：約17,000円	両目：約17,000円

※ボトックス注用50単位を使用した場合

ボトックスの注射ボトルには50単位と100単位のボトルがあり、50単位が47,154円、100単位が84,241円と値段が決まっていて、製剤注入の手技料として別途で約4,000円がかかります。

一度希釈した製剤は、菌の増殖を防ぐために同一人物に対してその日のうちに使い切らなければいけません。そのため、1度の施術で2単位のみ使用した場合と、50単位使用した場合でも溶解する製剤の量は変わらないため、料金は変わりません。

保険が適用される眼瞼痙攣や斜視の治療では、使用したボトルの単位数とボトルの数で費用が変化します。

注射時の痛みは、予防接種などと同程度の痛みがあります。塗布麻酔や笑気麻酔・点眼麻酔を準備している医療機関もあるので、痛みが苦手な方は施術を受ける前に医療機関にお問い合わせください。

ボツリヌス注射の施術を受ける医療機関の選び方

ボツリヌス注入は、美容医療では目尻のシワ改善やタレ目形成を目指すことができ、眼科では保険が適用される眼瞼痙攣や斜視などの改善が期待できます。そのため、改善を目指したい部位によって医療機関を選ぶ必要があります。

自由診療である目尻のシワ治療やタレ目形成の施術は、施術にかかる費用を各医療機関で決定できるため、同じ施術でも費用が異なる場合があります。しかし、施術が終わった後の保証が充実していたり、ボトックス製造会社のアラガン社から認定書を授与されたドクターが駐在している医療機関もあるので、保証の有無などを基準に医療機関を選ぶのもひとつの方法です。